左脳は右脳の夢をみる

24歳で脳出血を起こしても、この世界で誰かを守るために生きる1人の軌跡。

月と六ペンス

イギリスの小説家サマセット・モームの代表作『月と六ペンス』を手に取ったのは大学2年生の始めー岩波文庫から出ていた夏目漱石の著書を大方読み終え「海外文学にも手をつけてみよう」と思っていた頃―題名に惹かれて出会った一冊。月は「夢」を六ペンスは「現実」を現しているらしい。

私は昨晩、ある出来事を通してこの「 現実」を「お金」に当てはめた巧妙な言語表現に改めて感嘆させられました。

きっかけは母の一言―「復職したいのは分かるけれど一人暮らしに必要なお金はどうするの?」

お恥ずかしいことに仕事に戻りたい気持ちだけ(=月)をリハビリの一本軸にしていたために現実(=六ペンス)の問題から目を背けていました。

更に母はこう続けました―「〇〇(私の二番目の弟)を大学に入れるお金を工面するのも大変だから、○○は新聞配達の寮に入って大学で勉強すると言っているよ…メグミが一人暮らしをしたい(会社の近くに住みたい)なら、私たちは借金をしてでも支援をするけれど…」

 

私が貯金をできていなかった上に病気になったせいで一人暮らしの費用を親に負担してもらう、さらに弟の人生がその犠牲になる―私の脳内は半ばパニックで母の言葉を上手く処理できていない状態でした。

こんな時は過去二度の休職経験を活かしてノートに問題点と解決策を書き出してロジカルに考えて生きる。

【問題点】

・一人暮らしの初期費用を支払うだけのお金を工面できない

【解決方法】

①実家から通う

└メリット:金銭的負担が最小限

└デメリット:片道2時間かかるので、リハビリで気力・体力をこれから更につける必要がある

②復職を諦める

【結論】

②を選ぶくらいなら私が11時間の手術から帰還した意義も、生きる活力もなくなるので、必然的に①を選ぶことになる。

【問題解決までにやるべきこと】

①左手脚のリハビリに励んで杖なしで通勤できるようになる(通勤ラッシュ時ジャマになるため)

②片道2時間の通勤に耐えられるだけの体力をつける

 

『月と六ペンス』は画家ゴーギャンをモデルにした物語が描かれています―公務員の主人公ストリックランドがある日突然、芸術家への道を歩むことを決意し、家庭も貯金も捨てて、一人旅立つ。そして、彼は貧困生活の中にも関わらずハンセン病で亡くなるまで絵を描き続ける―日芸時代の私は芸術に命を燃やした彼の物寂しくも気高い生き様に涙を流したのでした。

思えば私はあの頃から昨晩まで「月」の美しさにしか目を向けられていなかったのでしょう。

月光に照らされた道を歩くだけなら誰にだってできる。これからの私に必要なのは、その道を六ペンスを握りしめて歩き続ける覚悟と努力なのかもしれません。